主宰者インタビュー

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SPECIAL

広告主とデザイナーの
「消費者とのエンゲージメント」。

 

アド・ストラテジーの主宰であるシモガワグラフィック(以下「シモグラ」という)は、PCによるデザイン制作が主流のDTP全盛の現代にあって、版下を体験した最後のデザイナー世代だ。1993年にフリーランスとして事務所を開設。福岡市で多くのクライアントから支持を集めてきたが、2016年に地元の久留米市に活動拠点を移動し、リスタートをきった。その狙いと今後の経営戦略について話を聞いた。

―――シモグラさんは、昨年から活動の拠点を久留米市に移動しましたね。その狙いは?

シモグラ:実は、3年前に他界した父の死に接し、40代半ばを過ぎて軽めのミッドライフ・クライシス(中年の危機)に陥ってしまいました。それを転機に、心と身体のバランス改善を求めるようになりまして、ロハスな生活をおくれる場所を考えたら、やはり久留米だなと(笑)
それから九州新幹線のインフラ整備が進んだことにより、ブロードバンド(高速通信)も一緒に普及した背景もあって、久留米市以外にも福岡市内の広告主ともスムーズなデータのやりとりなど、仕事の対応が可能になった面も大きいですね。
また、友人でもあり中小企業診断士でもあるKen氏の後押しもあって、アド・ストラテジー(以下「アドスト」という)の新たな挑戦ステージとして、グラフィックデザインを中心に、全方向でビジネス支援が出来る地方の拠点を作って、そこから全国にソリューション展開(問題解決提案)ができたら面白いんじゃないかと考えるようになりました。

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――――なるほど。ドメスティック(限定地域)に留まるということではなく、一歩、地方に身を引いてから、全体を俯瞰できる場所でデザイン業界を見渡す。そこから全国に発信するということですね。あえて筑後地域の魅力を語るとすれば、どんなところがプラスポイントでしょうか?

シモグラ:久留米の代表的なランドマークというかアイコンといえば、やはり筑後川ですよね。そこに暮らす人たちの豊かな自然に囲まれ、のんびりした地域性も魅力的ですし、空気も澄んでいます。諸説ありますが、豚骨ラーメン発祥の地で、料理は美味いし、なにより筑後美人が多い(笑)

―――そういえば、久留米市は廃業率が高いだけでなく、逆に全国的に見ても起業家率が高い地域だそうですね。

シモグラ:例えば久留米に近い鳥栖ジャンクションは、日本では数少ないクローバー型ジャンクションの物流ハブです。そういった意味でも筑後エリアは、物や情報が集まりやすい九州のヘソに位置していると思います。だから新しい産業が参入しやすいし、アドストのビジネスチャンスのポテンシャルも高いと考えています。ここを中心に営業ネットワークの構想を描けたら面白いんじゃないかな。

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―――地理的には有利な場所ということですが、そこに住むお客様がどういった属性なのかを分析することも大切ですよね。

シモグラ:久留米市の総人口が 305,993人(※平成28年4月1日現在)で、限定的な地域の中にも係わらず、昔から絶えずイノベーション(変革)が生じやすいのも地理的な要因が影響していると思います。放っておいても、多様な人たちや産業が産まれるダイバーシティなので、起業したばかりの創業ステージのお客様をサポートさせていただければ、ロングライフデザインの可能性も高まりますしね。
ただ、そうは言っても廃業率もそれなりに高いという面も見逃せません。すべての企業の宿命がそうであるように、ゴーイング・コンサーン(継続し続ける経済活動体)を実現する為に、アドストが久留米から独自のグラフィックデザイン制作やサービスの提供を通じて、新しい価値を創造していきたいですね。

―――多様な筑後の魅力を取り込むことがアド・ストラテジーの魅力の源泉になっているのですね。アドストの持つデザインの強みはどういったところにあると自己分析していますか?

シモグラ:まずは、スペックワーク(無償で行う仕事)を恐れない!ということですね。
地方の場合、多様化するニーズに幅広く対応できる“デザインに関するなんでも屋”(Webデザインも看板広告も一緒くた)こそが広告主から必要とされる存在なのです。
だからトータルソリューションの提案力が必要とされる筈で、広告主の納得性が高まるまでは、何度でも質の高い提案や間接的な業務にもチャレンジします。ただし、デザイン制作の際に、我々はロジカルに計画を詰めていきますが、最後の決断は、自分の直感よりも広告主の意思決定に従うべきだと思います。これは責任回避というわけではなくて、職人気質よりも広告主の中にある暗黙知を形式化することを優先すべきだと考えているからです。
そして筑後という視点で考えた場合、小規模商圏の攻略がこれからの時代の勝ち残りの鍵。なぜならば消費者の価値観がものすごく細分化されたクラスター(小さな塊の集積)な状況にある近年、消費者はその中から、より主体的に選択された興味対象にだけ、お金を支払うからです。

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―――他社でも地域のお客様に様々なサービスを提供しています。シモグラさんは、ライバル企業が提供する新しいマーケティング手法が気になりますか?

シモグラ:例えば、少し前にブームになったペルソナマーケティングですが、顧客ターゲットをより鮮明にするために、属性を細かく設定して、擬人化するわけです。
福岡でもいろんな会社で、クリエイターが考えたであろう架空のキャラクターを街中に氾濫させました。だけど単純化して考えれば、アドストで従来からやっている妄想マーケティングで、十分ペルソナやビッグデータを凌駕して、クライアントの頭の中に存在する最適解を導き出せる。
どんな媒体であっても、それは可能だし、これまでもウェブメディアとオルタナティブ(時代の流れに捕われない普遍的なものを追い求める精神)の相互効果で、狙いの顧客を囲い込むマーケティングを実践してきました。
う~ん、、、ちょっと横文字を使いすぎかな(笑)普段、クライアントの社長様と会話する際には、きちんと相手に伝わる言葉に変換して伝えるよう心がけているんですけどね(笑)

―――社長の気持ちといえば、福岡市が認定した起業家育成プログラムを卒業した方々が集う福岡市インキュベートOB会の会員だとお伺いしました。
多くの方々と席を並べて、一緒に経営の勉強を体験したことは現在の貴重な財産ですね。

シモグラ:福岡もそうですが、地方はクライアントの抱える問題が広告デザインのみで解決できるケースが少ないという現実があります。経営者は単にデザインを納品してくれる業者が欲しいわけではなく、優秀なブレーンを求めているということです。そのためには、デザインの領域を超えて、商品やサービスをつくる段階からクリエイティブとして関わることの重要性を学びました。インキュベーションのネットワークを通じて、有益な情報に対するアンテナの張り方が重要だと身に染みましたね。
少し飛躍した言い方かもしれませんが、究極にいえば企業の生命線は「売上は全てを癒す。営業利益が出てさえいれば殆どの問題は解決する」ということです。だから、デザイナーであっても、経営に関する知識も持ち合わせたほうが、より深い関わり方ができると思います。それまではデザインだけを重視して、成果物の費用対効果の割り出しが甘かったと実感しました。

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―――実際に経営者の立場や気持ちを汲み取った上で、最適な提案ができるようにしたいということですね。最後に今後の抱負や事業展開についてお聞かせください。

シモグラ:一言で言えば、ローカルの魅力を伝えるデザインを創造したい。この筑後の良さを体現している真面目なものづくりのお手伝いをしたいと考えています。
また、現状の領域を超えて、デジタルサイネージ(電子表示機器を使った情報発信)やインフォグラフィックス(視覚的な造形表現)の分野にも力を入れたいですね。
地方の印刷会社の場合、薄利多売でデザインをテンプレートにのせるだけ。まるでファーストフードのような安く広告物を作りたいという需要にばかりアジャスト(適合)させる傾向があります。そんなヤツらにドロップキック! 我々はアバンギャルドに攻めていきます!!地方でのグラフィックデザイナーの立場は都会に比べて評価が低いのが現状です。もし、我々が新しい価値創造にチャレンジをして、久留米市のクリエイティブ環境の改善と地位向上を実現できれば、それは後進の指導や活路にも繋がると感じています。

――――ありがとうございました。